私の実家には、円形でグレーの文字盤に白いフレームが付いている、ごく普通のシンプルな壁掛け時計があります。
この時計の形が昔は四角かった気がするのです。
昔、というのは幼稚園とか、小学校低学年とかの本当に幼い頃の話です。その時計は当時、子ども部屋にあったのですが、その頃は四角い時計を見上げていた記憶があるのです。
このことに思い至ったのは高校生くらいのときでした。しかし幼い記憶とは曖昧なものですし、気のせいかなと思い、また、時計の形が変わるだなんて突拍子もないことをいちいち言及するのもなんだか気恥ずかしい気もして、誰にも言わずに過ごしてきました。
ところが、成人してしばらく経ち、久しぶりに帰省したある日、同じ家で育ったニ歳年上の姉に言われたのです。
「あの時計、昔は四角くなかったっけ?」
誰にも言っていないのだから私の話に姉が影響されたということはあり得ません。幼い頃、姉と私は同じ子ども部屋を使い、同じ時計を見上げていました。つまり、姉と私は同じ体験をしていたということになります。時計の形が変わるなんて気のせいだと思い、忘れかけていた私はびっくりしてしまいました。
それならば、実はグレーの文字盤で白いフレームの四角い時計から、ある時期に似たような丸い時計に買い換えたのではないか、と私と姉は考えました。それなら辻褄があうし、現実的な普通のことです。
しかし実際に母に聞いてみると、その壁掛け時計を買い換えたことなどないと言うのです。
さらに言えば、実家に四角い壁掛け時計があったことは一度もないとまで言われ、私と姉は思わず顔を見合わせました。父も同様に四角い時計の存在など全く知らないようで、怪訝な顔をされました。
時計が丸かろうが四角くかろうが、別に問題はないのですが、何だか狐につままれたような不思議な気持ちになりました。
結局、四角い時計の記憶の正体は分からないまま、丸い時計は今も実家の壁に掛かっています。

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